齋藤 香子さん
庭の花や野山の恵みを自らの手でドライに仕立て、リースやブーケなどを制作し、イベントにて販売。不定期にワークショップも行う。季節に寄り添いながら、その時の気分のままにマイペースに活動を展開している。
https://www.instagram.com/tsubura.handmade/
人と空間にそっと寄り添う、手作りの花飾り
さりげなく暮らしに溶け込むような、贈られた人がやさしく微笑んでくれるような―。「tsubura.handmade」として創作活動をする、齋藤香子さんのリースやブーケ。自分の手で草花をドライにしたものを使い、一つ一つ手作りする齋藤さんの作品は、その人、その空間に寄り添う“自然さ”が魅力です。それは、ありのままの自分を受け入れ、思いのままに作品を作りだす、齋藤さんの「大人の自然遊び」から生まれたものでした。
夢はお花屋さんになること
「小学4年生のときの文集の『将来の夢は?』っていう質問に『お花屋さん』と、書いたんです」
少しはにかんだ笑顔で、幼少期のエピソードを語ってくれた齋藤さん。共働き世帯の一人娘として生まれ育った齋藤さんは、祖母の家にあずけられ、庭先や裏山で一人遊びをすることも多かったといいます。自宅に建てた温室で山野草を育てるなど、もともと植物が好きな父親とともに、時折、野山にも足を運んでいたそう。さまざまな植物にふれていた齋藤さんが「花屋になりたい」と思うのは、ごく自然なことだったのかもしれません。
高校3年生となった齋藤さんは、その夢を叶えたいと独学で植物の知識を得ながら、大学に進学。造形学部で草木染などの勉強をし、卒業後にフラワースクールへ。その後、地元のホテルでブライダルフラワーの制作に励みます。
「朝から晩まで、一年中忙しかったですね。結婚後も勤めていましたが、子どもを授かったのを機に退職しました。やりがいのある仕事ではあったものの、何よりも大好きな花と自分なりに向き合えるゆとりをもつことができない日々に、少し疲れを感じてしまったのかもしれません」
自分に、花に、正直に向き合う
花は同じ種類であっても、枝ぶりも花の向きも、一つとして同じものはありません。なのに、決められた形に作らなければならないというところが、プロの使命とは理解していても苦しかったといいます。齋藤さんにとっては、決まったかたちを作ることよりも、草花の個性をいかすことのほうが大切だったのでしょう。
退職後は主婦業に専念。お子さんを出産し、1年が過ぎたころ、縁あって地元で開催することになったアートイベントのサポーター兼花屋として参加することになりました。
自分が好きなように作ったリースやブーケをお客さんが見て、買ってくれるという、今まで経験したことのない、初めての喜び。フリーとなり、この気持ちに気づいた齋藤さんは、再びゆっくりと花と向き合うことにしました。
心のおもむくままに、素直に生きたい
自分でドライにしたものしか使わない。それが齋藤さんのこだわりのひとつです。庭に植えた1本のユーカリからはじまり、あれもこれもといろいろな植物でドライづくりに挑戦。山に入っては木の実やツタを集め、リースの土台も手作りしているそうです。知り合いの米農家さんがお裾分けしてくれたワラは、しめ縄としても使うだけだけでなく、自然味あふれるリースの土台にもなりました。
「あれはだめ、これはいける!みたいに、いろいろと自分で試行錯誤することも楽しいんです。子どもの頃の自然遊びが今につながっている感じがして」自然のものを、自然のままにいかす。素直な自分でありたいと願う齋藤さんの生き方は、創作活動にも結び付いているようです。
植物との出会いも一期一会
実店舗を持たずに、イベント出店を中心に活動を展開している齋藤さん。ワークショップでは、こどもから年配の方まで幅広い年代の方々が参加し、夢中になって作品づくりを楽しんでいます。
「自分の作ったものを買ってくれるだけでもいいのですが、それ以上に植物を通して、お客さんといろいろなお話しができることを大切にしたいと思うんです。最近では、自分のために飾ると言って品定めをする男性のお客さんも増えてきたことが、本当にうれしくて」
心が動くほうに、そのときの思いのままに仕上げていくので、作品との出会いは、まさに一期一会。同じものはないのです。間もなく咲き始めるだろう春の木々を前に「普段はズボラな主婦、でも花だけは真面目でありたい」と話す齋藤さんの横顔は、飾らないやさしさにあふれていました。