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文化と歴史

4月8日、釈迦の生誕を祝う灌仏会

掲載日: 文化と歴史
4月8日、釈迦の生誕を祝う灌仏会

4月8日は灌仏会。薬師様、花祭りとも

旧暦4月8日は、薬師様(やくしさま)、灌仏会(かんぶつえ)などと呼ばれ、各地の寺院やお堂では、釈迦(しゃか)の生誕を祝う行事を行う。今年は、4月30日が旧暦4月8日である。灌仏会は、新暦の4月8日、または月遅れの5月8日に行うところもある。

灌仏会は、御堂の中央に釈迦の誕生仏を安置して、柄杓(ひしゃく)で甘茶をかけるものであるが、その際に、ツツジや藤など季節の草花で御堂を美しく飾りたてることから、「花祭り」とも呼ばれている。釈迦誕生の際に産湯を使わせるために9頭の龍が天から甘露を注いだという伝説に由来するもので、この時の甘茶で目をふくと、眼の病気にかからないといわれる。

花祭りの様子。釈迦の誕生仏に甘茶をかける。(2002年、鹿沼市栃窪)

厄除け、病気除けを祈る日

この日は、農耕に関係した祭りも見られる。山の神が田へ降りてきて田の神になる日とされ、山へ行って花を摘み、それを田の水口に供えたり、高い竿の先につけて、家の外に立てたりする。また、厄除け、病気除けとして、ヨモギやツツジ、藤の枝など臭気のある植物を戸口や軒下にさす家もある。

軒下にさした藤の枝。厄除け、病気除けとされる。(2017年、小山市間々田)

「間々田のじゃがまいた」は関東有数の奇祭

小山市間々田地区では、旧暦4月8日(現在は5月5日)に「間々田のじゃがまいた」を行う。この祭りは2019年に国の重要無形民俗文化財に指定された。栃木県内での指定は5件目となる。

地域の人々が藁やシダの葉などを用いて、長さ15mほどの蛇体を作り、これを担いで「ジャガマイタ ジャガマイタ 4月8日のジャガマイタ」のかけ声とともに、各町内を練り歩く。

間々田八幡宮の神官から祈祷を受ける。蛇の口に御神酒を注ぐ。(2017年、小山市間々田)

故事にちなみ、疫病を追い払う祭り

釈迦誕生のときに八大龍王が竜水を降らせた故事にちなみ、ほどよい風雨を神仏に願い、あわせて厄病を追い払う行事とされ、あるいは間々田にある龍昌寺(りゅうしょうじ)住職、法隆東林が、この地域を襲った日照りと疫病の流行による民衆の困窮を見かねて、龍の模型を作って祈祷したところ、たちどころに雨が降り、また疫病もやんだので、その後は祭りを行うようになったともいわれる。

水飲みの様子。間々田八幡宮の弁天池で蛇に水を飲ませる。(2017年、小山市間々田)

家の玄関に入れて厄除けも

当日、各町内では蛇体を担いで鎮守である間々田八幡宮に集まり、拝殿前で神官から祈祷を受ける。次いで、境内にある池に蛇の頭を入れ、水を飲ませる所作を行う。その後、蛇体は再び各町内へ戻っていくが、帰り道に厄払いとして、玄関口に蛇の頭を入れることを求める家もある。

蛇の頭を入れる とくに新築の家で行う。厄払いとされる。(2017年、小山市間々田)

豊かな生活を祈る人々の行事

かつては、蛇体の装飾は藤の枝などで行い、祭礼後の蛇体は境に捨てたり、川に流したりしていた。現在は、「子どもの日の祭り」として認知されているが、水の使いである龍、厄払い、病気除けとしてのヨモギや藤の枝、それが田植えを前にした4月8日に行われていたことなどを見ると、民俗学的にも奥が深い行事であることがわかる。

地区内をまわる蛇 小山市間々田の7つの地区では、工夫をこらした蛇体が作られる。(2017年、小山市間々田)

4月8日は、旧暦では上弦の日にあたり、農家では種を播く目安とするなど特別な日と位置付けられていた。また病害虫や疫病が発生しやすい時期でもある。非科学的なものとして一笑に付すことはたやすいが、月の形や植物、祭りをよりどころとし、豊かな生活を願う心は、見習うべき点が多い。

※今年(2020年)の「間々田のじゃがまいた」は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、中止になりました

篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。

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