6月晦日に行われる神事
早いもので、一年も半分が過ぎようとしている。かつて、日本人は一年を二期に分け、前半の始まりは正月、後半は盆(旧暦では7月1日が盆の始まりである)と考えていたから、6月30日は前半最後の日、すなわち年末の大晦日にあたる日とされる。
その6月30日(もしくは月遅れの7月31日)に、宇都宮市の二荒山神社をはじめ、那須烏山市の八雲神社、真岡市の大前神社、上三川町の白鷺神社など各地の神社では、夏越しの祓を行う。その中心となる行事が茅の輪(ちのわ)くぐりで、「水無月の 夏越しの祓 する人は 千年の命 延ぶというなり」と唱えながら、境内に置かれた直径2mほどの輪をくぐると、病気や災難から逃れられ、長生きができるという。
茅の輪くぐりの流儀、意味
くぐり方には流儀があり、八の字を描くように三度くぐって(左回り、右回り、左回り)から、社殿に進んで無病息災を願う。
当日参加できない人は、あらかじめ配られる形代(かたしろ)に、自分の姓名と年齢を書いてから、体の具合の悪いところを撫で、三度息を吹きかけたものを参詣者に託して持っていってもらう。すると、神社では、それを川に流したり、お焚きあげをしたりすることで祓い清めてくれる。
茅の輪くぐりが、いつ、どのようにして始まったかは定かでないが、奈良時代に記された『備後国風土記(びんごのくにふどき)』に見られる「蘇民将来」の伝説によれば、蘇民将来の子孫といって、腰に茅の輪を付けていれば疫病から逃れられたという。また、文化3年(1806)に刊行された『諸国図会年中行事大成』には、茅の輪をくぐる人々の様子が描かれている。
茅(ちがや)は、屋根材として使用された身近な植物である。その強靱な根と青々とした葉は、強い生命力を感じさせ、剣のように先端の尖った葉は、魔を除けるものとして信仰された。茅の輪は、束ねた茅を割竹で作った心棒にくくりつけて紐で縛り、円形になるように整えたものである。例年、多くの人が、神職の先導で茅の輪をくぐり、身についた穢(けが)れや、厄災を茅に遷して、清らかな気分で残りの半年を迎える。
無病息災を願い、穢れを払う
夏越しの祓は、疫病が流行しやすい夏を乗り越え、健康で過ごせることを願う民間信仰である。また盆を前に穢れを払うという意味もある。今年は、新型コロナウイルス感染症の流行により、肉体的にも精神的にも厳しい状況が続いているが、すでに起きてしまった災難を一度リセットし、今後の安寧(あんねい)を願うことは、人々共通の願いであろう。時節柄、夏越しの祓に参加してみてはいかがだろう。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。