新しい町名が生まれている
令和3年(2021)3月1日より、宇都宮市の北西部に位置する徳次郎町の町名が、「とくじろうまち」から「とくじらまち」に変更となったが(前号参照)、町の名称が変わることは珍しくない。宇都宮に限ってみても、ここ十数年の間にインターパーク、ゆいの杜(もり)、宮みらい、城東(じょうとう)など新しい町が生まれている。
町名の変更は住居表示制度と関係がある
町名の変更は、地域住民からの要望で検討されることもあるが、住居表示制度と関係が深い。これは、昭和37年(1962)に施行された「住居表示に関する法律」に基づき、都市の人口密集地などで実施されてきた。住居表示が実施されると、町の区域が変わり、そこに新しい町名が付けられることがある。
宇都宮市では昭和38年からこの事業に着手している。当時は街路をまたいで境界が引かれ、一つの町の大きさはさまざまであった。地番も整然と配列されていないため、市街地の拡大とともに住居の特定が困難となり、治安、救急、郵便、通信など市民生活や経済活動に支障をきたしていた。そのため道路や鉄道、河川など恒久的な施設をもって境とし、国の基準にあわせた面積で町割を行うことが検討された。
伝統ある町名も廃れ、新しい町名に
翌39年には、概ね東京街道、東武宇都宮線、栃木街道、清住通りで囲まれた地域、いわゆる宇都宮の上町で住居表示が行われた。そうしたなか旧日光道中(現在の不動前通り、蓬莱大黒通り、清住町通り)沿いの南新町(みなみしんまち)、熱木町(ねぎまち・ねいぎちょう)、歌橋町(うたのはしまち)、大黒町(だいこくちょう)、蓬萊町(ほうらいちょう)、茂登町(もとまち)、挽路町(ひきじちょう)、本郷町(ほんごうちょう)、小伝馬町(こでんまちょう)など江戸時代から続く伝統ある町名が廃され、新町(しんまち)、花房(はなぶさ)、西(にし)、泉町(いずみちょう)などになった。
また、東京街道の西側には二条町(にじょうまち)、三条町(さんじょうまち)、四条町(よじょうまち)、南宇都宮駅付近には富士見通(ふじみどおり)、桜馬場通(さくらばばどおり)、陽南通(ようなんどおり)、永楽町(えいらくちょう)などの町名が見られたが、いずれもなくなっている。そして、昭和40年には、それまで広大な面積を占めていた西原町(にしはらちょう)、戸祭町(とまつりちょう)、一の沢町(いちのさわ)の一部が分かれ、桜(さくら)、松原(まつばら)、星が丘(ほしがおか)など新しい町が誕生した。
古い地名の痕跡を見つけてみよう
これらの町丁名は50年以上も前のもので、当時のことを知る人は少なくなっている。しかし、注意深く観察すると、バス停や通り名、公民館の名称などに古い地名の痕跡を見つけることができる。また、宇都宮市では旧町名を記した表示板を各所に設置し、かつて存在した町の由来を紹介している。古地図を片手に町を散策してみてはいかがだろうか。新たな発見があるかも知れない。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。