独特な味わいのある「小砂焼」
栃木県那須郡那珂川町北部に位置する小砂は、小砂焼(こいさごやき)の生産地として知られている。カオリンを多く含む小砂の土からは、陶器にして磁器の特徴を併せ持つ独特な焼き物が作られている。
小砂は奈良時代の頃から須恵器(すえき)や瓦が作られ、国山地区の斜面には小砂古窯跡が散在する。今日の小砂焼の興りは、天保元年(1830)に水戸藩主の徳川斉昭(当時の小砂は水戸藩領であった)が陶土を発見したことに由来する。小砂の土は水戸藩営御用製陶所に運ばれ、那珂湊反射炉のレンガの原料となった。嘉永4年(1851)には御用瀬戸の試焼が行われ、大金彦三郎が日用雑器の生産を始めると小砂焼は広く知られるようになった。
現在、小砂にある4軒の窯元のうちもっとも古いものは、安政3年(1856)創業の「藤田製陶所」である。小砂村の庄屋・藤田家に招かれた斉藤栄三郎(後の藤田半平)が、登り窯でかめやすり鉢などの製作を始め、明治時代後期から大正期にかけては徳利も作られた。そして、その後に考案された「金結晶」の花瓶や茶碗、ぐい飲み、カップは、黒釉のなかに黄金の結晶半纏(はんてん)をまぶしたもので、素朴さの中にも上品な佇まいから小砂焼のなかでも特に人気が高い。
素朴さの中に上品な佇まいのある陶器
伝統を守りながら新しい形を模索
現在の当主・藤田眞一氏は6代目、栃木県伝統工芸士として活躍している。平成8年(1996)には小砂焼体験センター「陶遊館」を開設し、かつて小砂で作られていた白磁の復興にも取り組んでいる。
さらには干支の置物やストラップ、ガチャガチャの製作を行うなど、小砂焼の伝統を守りながらも新しい作品作りに挑戦し、小砂地区の活性化に力を注いでいる。
工房によって多彩な作品がある
同じく栃木県伝統工芸士の岡稔氏は、穴窯で小砂焼を制作している。穴窯は登り窯以前の古い形式の窯で、山の傾斜を利用して作られた幅2m、高さ1m、奥行き5~6mほどの大きさの空間で焼き上げた作品は、とても味わい深い。工房によって多彩な作品が見られることも小砂焼の魅力の1つであろう。
「日本で最も美しい村」の小砂
小砂は、「里山の美しさ」と「伝統やアートを切り口」とした景観が評価され、平成25年(2013)には栃木県では初となる「日本で最も美しい村」連合への加盟が認められた。里山の風景を満喫しながら小砂焼を堪能するのもよいだろう。ろくろや手びねり、絵付けなどの陶芸体験ができる施設もあるので、オリジナルのカップや皿を作ることもできる。そして、毎年春と秋に開かれる「小砂焼陶器市」に足を運べば、小砂焼の掘り出し物に出会えるかもしれない。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。