ユウガオの実から作られた民芸品
ふくべ細工は、ユウガオの実(フクベ)から作られた民芸品である。その形を活かした炭入れや花器、小物入れなどは実用品としても広く知られており、栃木県の伝統工芸品となっている。
栃木県におけるユウガオの生産は、1712(正徳2)年に壬生城主の鳥居忠英(とりい・ただてる)が前任地の近江国(現在の滋賀県)水口から種を取り寄せて作らせたのが最初といわれている。アフリカ原産のユウガオは暑くて水はけのよい土壌を好むが、壬生町や下野市、小山市など栃木県の中央部は、ユウガオ栽培の適地といわれ、栽培が盛んに行われている。栃木県が全国一の生産量を誇るかんぴょうは、このユウガオの果肉を細長く剥き、乾燥させたもので、令和2年度の生産量は209㌧、全国生産量のほぼ100%を占める。
ふくべ細工として加工されるふくべは、かんぴょうを取るために収穫されたものではなく、翌年の種用として畑に残したものである。それまでは、畑の隅に廃棄していたが、宇都宮駅近くのかんぴょう販売店が、ディスプレイ用として展示していたところ炭入れとして注目され、大正時代から昭和初期頃にかけて、関東地方を中心に広く販売されるようになった。
ふくべは魔除けの面も
ふくべは、乾燥させることで皮が固く引きしまり、丈夫で、軽い。そして容易に加工することができる。そのため炭入れの他に花器や小物入れなども作られたが、ふくべの外皮におかめやひょっとこ、鬼などを描いた面も評判となった。なかでも目を引く絵柄は鬼である。まん丸とした目に大きく開いた口、そして口角からは牙も見える。そこに施された緑や赤の色彩が何ともいえない雰囲気を醸しだし、怖いというよりは、愛嬌のある面構えである。この鬼は宇都宮の伝説の百目鬼をもとにしたもので、魔よけとして買い求める人が多い。
オリジナルのふくべを作る体験教室
栃木県伝統工芸士の小川昌信さんは、「ふくべ細工体験教室」を開いて、栃木特産のかんぴょうやふくべ細工の周知に努めている。シーズンになると毎日のように日光へ出向いては、修学旅行に来た子どもたちにふくべ細工の作り方を教えている。これは、鋸(のこ)や電動ドリルを用いて適当な形にふくべをくり抜いてからチョークで下絵を描き、色を付けるものであるが、宇都宮でも一般を対象に実施することがあるので、興味のある方は広報誌などで確認してほしい。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。