箒(ほうき)の端材で作られた「きびがら細工」
きびがら細工は、栃木県鹿沼市のきびがら工房で作られている郷土玩具である。ホウキモロコシの茎(きびがら)を針金や糸で縛って編み上げたもので、卯(ウサギ)や寅(トラ)などの十二支や狐、河童、鹿、鶴、亀などに形作られた作品は、正月の縁起物やインテリアとして親しまれている。
鹿沼市は座敷箒(ほうき)の生産地としても知られている。
1841(天保12)年に鹿沼市上殿の代官荒井嘉右衛門が、江戸練馬からホウキモロコシの種を持ち帰り、植え付けたのが始まりとされ、その花穂から作られた箒は「鹿沼箒」の名で広く流通した。丈夫で使いやすく、さらにハマグリの形になるように手仕事で編み上げられた接合部は見た目に美しいので、各家庭や学校、工場などで愛用された。
しかし、昭和時代の中頃になると電気掃除機の普及などにより、活躍の場は失われていく。
知名度の高い郷土玩具
きびがら細工は、上記を危惧した鹿沼箒職人で、きびがら工房二代目房主の青木行雄氏が1962(昭和37)年に創案した郷土玩具である。
箒を作る際にできる端材を利用し、箒編みの技術を駆使することで作られた作品は、1964年に全国観光土産コンクールの国鉄総裁賞やオリンピック東京大会記念全日本推奨土産品審査会推奨品に選ばれ、さらには日本民芸公募展の最優秀賞や優秀賞を複数回にわたって受賞するなど、郷土玩具としての知名度を高めてきた
受け継がれた伝統の技
今日、きびがら細工の技は、行雄氏の孫にあたる増形早苗氏に受け継がれている。鹿沼箒の技を絶やすまいと行雄氏のもとで技を磨いた早苗氏は、鹿沼で消滅の危機にあったホウキモロコシの生産復興やきびがら細工の普及啓蒙にも力を注いでいる。そして、祖父の型を継承しつつも、女性としての感性を生かした作品を創作することで、ファン層を広げている。
きびがら細工は、栃木県立博物館内の売店や近隣の「道の駅」で販売している。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。