ナスとの相性抜群のソウルフード「ちたけ」
画像: 農林水産省Webサイト うちの郷土料理より
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/31_9_tochigi.html
栃木県民が好む食材に「ちたけ」がある。ちたけとはチチタケ(乳茸)のこと。ベニタケ科のキノコである。傷をつけると白い乳液を出すことが名前の由来といわれる。チチタケは、北海道から九州まで広い地域に分布し、夏から秋にかけて、クヌギやコナラなどの広葉樹林、いわゆる雑木林などに出現する。ごく普通に見られるキノコだが、栃木県以外での利用はあまり見られない。
盆が近くなると、チチタケはデパートやスーパーマーケットの店頭にも並ぶ。松茸よりも高値で売らてれいることもあるが、チチタケ自体はぼそぼそとした食感で、人によってその評価は分れる。しかし、香りが強く、特にうどんや蕎麦の汁によくあう。なかでもナスとの相性がよく、チチタケとナスを鍋に入れてよく炒め、だし汁と醤油で味を調えたちたけ汁は、栃木県民のソウルフードである。
チチタケは少なくとも江戸時代には食されており、『享保・元文諸国産物帳』(1735~36年)には、栃木県内の平野部に産するチチタケが記述されている。この頃から特産物として位置付けられていたようだ。また、1835年に坂本浩然が書いたキノコ図鑑、『菌譜』には、「アカチダケ 下野(栃木県の俗称)方言」と紹介されている。
実は「うどん県!?」栃木は日本有数の麦作地域
日本有数の麦作地域でもある栃木県では、「盆にぼたもち、お昼にうどん、夜は米の飯でとうなす(かぼちゃ)汁よ」といわれたように、盆になると挽きたての小麦粉でうどんを作り、客にふるまう風習が見られた。その時期に生える数少ないキノコがチチタケであった。しかも、周辺に広がる雑木林ではチチタケがよく採れた。こうしたことから同じく夏野菜であるナスとあわせた汁が作られるようになったのだろう。ちたけうどんは栃木県の豊かな自然が生み出だした郷土料理といえる。
近年、栃木県では雑木林が荒廃しており、チチタケの発生量は少なくなっているという。加えて、福島第一原子力発電所の事故により、チチタケの放射能汚染が懸念されている。チチタケはキノコの中でも放射性物質を取り込みやすいので、食べるときは注意が必要である※。ちたけうどんが普通に食べられる自然環境に戻ってほしいものだ。
※福島第一原子力発電所の一帯では規制値を超える放射性セシウムが検出されているので、野生のチチタケの採取、食用には注意が必要である。放射性物質モニタリング検査結果等で安全かどうか確認して欲しい。近年は中国産のチチタケが輸入され、水煮などの形で販売されている。
ただいま「とちぎのキノコ展」開催中
栃木県立博物館では、11月4日まで企画展「とちぎのキノコ」を開催している。チチタケを含め栃木県と関係が深いキノコが紹介されているので、ご来館いただきたい。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。