
古民家から連想されるのは囲炉裏のある風景。揺れる火、パチパチとはぜる音、自然と人が集まるあたたかな空間。囲炉裏は単なる暖房や調理の場ではなく、家族の関係や暮らしの秩序までも形づくってきました。
火のある風景がつくる、家族の時間
古民家といえば囲炉裏が目に浮かぶ。存在感があって、懐かしい。そして火が燃える時に出るパチパチという音は、安らぎを感じさせる。レトロな雰囲気が漂う囲炉裏は、若い世代にとっても魅力溢れる空間にうつるようだ。
囲炉裏とは、屋内の床や土間に設けられた炉である。床を一辺がおよそ3~3.5尺(およそ1m)四方の正方形、または長方形になるように切り下げて、中には灰を敷きつめておく。薪や炭を入れて火を燃やせば煮炊きができ、暖房や照明としての役割も担った。そのため囲炉裏のまわりには家族や客が集まって語らいや食事の場となった。
座る場所に映る、家の秩序
席に上座、下座があるように、囲炉裏を囲む座席にも決まりがある。土間から見て正面、大黒柱あるいは神棚や仏壇を背にするヨコザ(横座)が上座で、一家の主人が座った。この場所は、家の全体を見回すのにも都合がよい。横座の隣、台所に近いカカザ(嬶座)は主人の妻、その向かい側の出入口に近いキャクザ(客座)は来客者や年寄り、長男の席である。

そして、横座の向かい側、土間に一番近い場所がキジリ(木尻)である。いわゆる下座で、嫁や子どもが座った。「横座に座るは猫ばか和尚」という言葉があるように、これらの席は厳格に決められ、主人が不在の場合であっても横座に他の人が座ることは許されなかった。
消えゆく囲炉裏と、残されたぬくもり
囲炉裏は火の管理が重要で、その火を絶やすことはなかった。高さが調節できる自在鉤、カギッツルシを上から吊るし、鉤の部分に鍋や鉄瓶を引っかけると、あるいは五徳に容器を載せることで、湯を沸かしたり、汁物や煮物を調理したりすることができた。また隅に置いた金網の上では餅や饅頭を焼いた。さらに天井から火棚を吊り下げて、そこに濡れた衣服や草鞋を載せておくと乾かすことができ、立ち上る煙で魚や肉の燻製を作ることができた。
囲炉裏は「家」の中心として欠かすことができない施設であったが、戦後になると日本の民家から急速に姿を消していく。管理に手間がかかる上に効率が悪いこと、家族構成や社会構造が変化したこと、さらには西洋社会への憧れもあって囲炉裏は敬遠されていく。多くは踏み込み(フンゴミ)炬燵にリフォームされたが、その後は建物の中に炉を切ることはなくなり、茶の間やダイニングキッチンへと変わっていく。しかし、囲炉裏がなくなったことで失われたものもある。家族同士のふれあいと親父の威厳である。囲炉裏に郷愁を感じるのは、そうした状況を懐かしく感じるからなのだろう。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。






