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文化と歴史

「しもつかれ」のこと

掲載日: 文化と歴史
「しもつかれ」のこと

初午に「しもつかれ」

栃木県では、毎年冬になると、スーパーの商品棚にサケの頭が所狭しと並べられる。県外から来て日が浅い人は理解に苦しむだろうが、これは、郷土料理「しもつかれ」作りになくてはならない食材である。

「しもつかれ」は、鬼おろしで粗くすりおろした大根と人参に、節分に用いた大豆、細かく刻んだサケの頭、酒粕を入れて煮こんだもので、そこに油揚げ、里芋、ごぼうなどを入れる家もある。その見た目ゆえ、好き嫌いははっきりと分かれるが、一種の行事食でもあり、2月の初午※1 に赤飯とともに藁で作った苞(つと)に入れ、稲荷様に供える。

しもつかれを藁苞に入れる(平成22年、鹿沼市笹原田)

※1) 2月最初の午の日。伏見稲荷大社の御祭神が降臨した日といわれ、稲荷神社ではこの日を縁日としている。2020年は2月9日、旧暦では3月4日が初午である

栃木県の郷土料理?

マスコミからは、栃木県の郷土料理と紹介され、「しもつかれ」の「しもつ」は、栃木県の旧国名である「下野」が語源とされる。しかし、よくよく調べてみると、福島県奥会津地方、茨城県西部、群馬県東部、埼玉県南部、千葉県北西部などでも作られており、このうち茨城県の結城市や筑西市一帯では、栃木県に負けず劣らず「しもつかれ」作りが盛んなことから、茨城県の郷土料理※2 としても認知されている。

※2) この地域では「すみつかれ」という。

稲荷様に供えられたしもつかれ。鳥居に吊るされた藁苞が見える(平成22年、宇都宮市長岡町)

一方、栃木県でも足利や那須地域では、「しもつかれ」を作る人は少ない。どうやら、下野説は少し無理があるようだ。しかも、年配の人は、「しもつかれ」ではなく、「しみつかり」、「すみつかり」などと呼ぶ人もいる。これには、「よく味がしみこんでいる」とか「凍みる(寒い)時期に作る料理」、あるいは「酢で味をつける」※3 ことなどが関係しているようだ。

※3) 古くは酢で味を整えた地域もある。

いわれ、タブー

「しもつかれ」には、「7軒のしもつかれを食べると中気(脳血管疾患のこと)にならない」、「しもつかれを入れた藁苞(わらづと)を屋根にあげると火難・盗難除けになる」などのいわれがあり、「初午前に作ってはいけない」、「稲荷様に供える前に食べてはいけない」というタブーも見られる。

しもつかれを屋根にあげると火難、盗難除けになるといういわれがある(平成22年、鹿沼市笹原田)

パワー&栄養素がたっぷり

「しもつかれ」は、郷土料理の域を超えた不思議なパワーを持つ料理なのだ。時には、残り物の食材で作った料理と揶揄されることもあるが、稲荷様のために作るご馳走であり、食材の乏しい季節に作られる知恵が詰まった料理である。そして、栄養価はすこぶる高い。「しもつかれ」はちょっと苦手という方も、ぜひ挑戦して欲しい。

鬼おろしで大根をすりおろす(平成22年、鹿沼市笹原田)

篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。

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