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文化と歴史

「鹿沼組子」の伝統と技術

掲載日: 文化と歴史
「鹿沼組子」の伝統と技術
鹿沼組子のコースター。「木のふるさと伝統工芸館」では組子作りの体験もできる。

栃木県の伝統工芸品

木工の町として知られる鹿沼市には、「鹿沼組子書院障子」という栃木県の伝統工芸品がある。

組子とは釘を使わずに木を組み付ける木工技術のことをいう。その歴史は古く、飛鳥時代に作られ、日本最古の木造建築とされる法隆寺の金堂、五重塔、中門などの欄干には、卍の形を崩した「卍崩し組子」を見ることができる。平安時代になると寝殿造り、室町時代には書院造りの障子の桟や欄間などの装飾として組子が施され、江戸時代に木造建築の需要が高まると大いに発展した。

鹿沼組子制作の様子。

建具(たてぐ)の価値を高めた技術

鹿沼市は、周辺から質のよい杉や檜(ひのき)などが切り出され、古くから戸、障子、雨戸など建具の生産地として知られていた。やがて組子を組み入れた付加価値の高い建具が作られるようになったが、そうした技術を支えていたのは、日光東照宮を造営の折に全国から集められた職人たちといわれる。当時の鹿沼の木工職人の技術の高さは、国の重要無形民俗文化財「鹿沼今宮神社祭の屋台行事」に繰り出される屋台の彫刻や装飾などに見ることができる。

鹿沼市石橋町の彩色彫刻黒漆塗屋台(鹿沼市指定有形文化財)。現存する鹿沼の屋台としては最も古い文化9年(1812)に建造された。脇障子などに組子の技法で作られた「花形組子障子」が見える。この屋台は、鹿沼市麻苧町の「木のふるさと伝統工芸館」に展示されている。

組子の伝統的な文様

今日、鹿沼組子は地元日光の杉や檜、外材のスプルス、ヒバなどで作られる。菱形や格子形の外枠の中に三角形の地組みを作り、「ハッパ」と呼ばれる木片を組み付けていくことで組子の模様となるが、そのためには、細く引き割った木に設計図からおこした印を付け、鋸(のこ)や鉋(かんな)、鑿(たがね)などで溝や穴、ホゾを作らなければならない。これが0.1㎜でもずれてしまうとよい製品とはならない。しかも、製品によっては何千ものハッパを必要とし、その一つひとつを手作業で組み込まなければならない。さらに木目やそりなど木の性質を熟知しておくことも重要で、組子の製作には長年にわたる経験と技を必要とする。

組子の文様には「麻の葉」、「胡麻」、「桔梗」、「桜」などがあるが、こうした伝統的な文様に加え新しい文様の組子も作られるようになった。木片の組み合わせによって、多彩な表現ができることが組子の特長でもある。

鹿沼組子衝立「孔雀」(吉原木芸製作)。曲線の表現は、組子のなかで最も難しい技法の一つ。
鹿沼組子壁掛け「剣菱」(吉原木芸製作)。
鹿沼組子壁掛け「富士山」(吉原木芸製作)。神代杉の緑、スプルスの白、日光杉の茶と木の種類を変えることで富士山の岩や木、そこにたなびく雲や雪を表現している。

工業製品にはない魅力

近年、洋風の住まいが好まれるようになったことで、鹿沼組子をとりまく環境は厳しいものがある。しかし、1400年以上に及ぶ伝統と手作業で手間暇かけて作られた組子には、工業製品にはない魅力がある。現代風にアレンジした建具やコースターなどの小物も販売されているので、手に取って組子の魅力を感じて欲しい。


篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。

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