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文化と歴史

栃木に伝わる子授け祈願の風習と信仰

掲載日: 文化と歴史
栃木に伝わる子授け祈願の風習と信仰

子宝を願う切実な祈り

結婚や出産は、現代では個人のプライベートな問題として扱われることが多い。しかし、かつての日本では「家」の存続が社会的に重要視されていたため、子宝に恵まれることは家族、特に女性にとって切実な願いであった。子を授かるために多くの人々が神仏にすがり、祈願を行った歴史を紐解いてみよう。

子授け祈願の場として知られる栃木の社寺

子を授かりたいと願う人々は、子安地蔵や子安観音、水天宮など広い信仰圏を持つ社寺や地域の氏神、道祖神などに祈願した。宇都宮周辺であれば芳賀町下延生の城興寺、通称「延生の地蔵尊(のぶのじぞうそん)」が特に知られ、そこで借りた人形を抱いて寝ると子が授かるという。戦前は地蔵尊に納められた雛人形が使われていたが、今日では和紙でできた「子授人形」を授けてくれる。また、「日本三大子授け地蔵尊」とも称される岩船山高勝寺(栃木市岩舟町)、日光山を開山した勝道上人誕生の伝説が遺る出流山満願寺(栃木市出流町)、通称「ハラミ観音」と呼ばれる観音堂(小山市延島新田)なども霊験あらたかな社寺として信仰をあつめている。

芳賀町下延生の城興寺(延生の地蔵尊 子育地蔵堂)
出流山満願寺

石や樹木に願いを込める風習

日光市山内の滝尾神社にある「子種石」もまた子授けを願う参詣者が訪れる。石の前で祈願し、その周りを時計回りに回ると子宝に恵まれるという。石は成長すると小石を生むと信じられているので、境内にまつられた石を抱く、なでる、腰掛ける、あるいは身につけると願いが叶うとされる社寺は多い。また、子授け松、子授け銀杏など特定の樹木を抱いたり、その木の皮を削って飲んだりすることで子授けの祈願をする人もいる。

他にも三夫婦そろっている家から米をもらい、それを嫁が炊いて食べると子が授かるという。あるいは温かいお湯を飲む、温泉の霊力に期待する、産婦の下着を貰い受けて身につける、実際に子どもができた状態を演出するなど、子授けに関する様々な俗信が伝えられている。

子種石

地域に伝わるユニークな祈願行事

鹿沼市粟野地区では、1月14日の小正月にゴイワイ(御祝い)というユニークな行事を行う。子どもたちが「ゴイワイ、ゴイワイ」と唱えながら、木製の陽物を持って新婚家庭を訪問するもので、若い夫婦の前にそれを差し出して、子が授かることを祈願する。

ゴイワイ(鹿沼市) 写真提供:栃木県立博物館

かつて、粟野町(現鹿沼市)の各地区で毎年のように行っていたが、子どもがいない、新婚の家庭がないなどの理由で、実施されない年が多くなった。「子は地域の宝」という考えが強くあらわれた貴重な風習である。

変わらない祈りの心

「家」や「家族」に対する考え方は、ここ数十年で大きく変化しているが、いつの時代にも子が授かることを心待ちにしている人はいる。科学が進歩した現代、今回紹介した風習は迷信めいたものであるが、それでも神仏にすがりたいと願う心は、今も昔も変わりないだろう。


篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。

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