忠兵衛 ピース
栃木県宇都宮市上田原町20-1
宇都宮市出身。都内の調理師学校卒業後、宇都宮市内の洋食店に勤務。両親が営んでいた蕎麦店を手伝ったのを機に、2016年に独立。現在は宝木町で暮らしているが、一日の大半を店で過ごしているため、もはや「田原町の人」となっているそう。
蕎麦と、コーヒーと。忠兵衛ピース 店主 堀井 哲也さん
宇都宮市田原。見渡す限り、のどかな田園風景が広がるこの地区に、一軒のお蕎麦屋さんがありました。今年3月で4年目を迎えた「蕎麦と、コーヒーと。忠兵衛ピース」。店を営む立地としては難しいのでは? と思われるこの場所で、店主の堀井哲也さんが、今日も元気にのぼりを立てて開店の準備に取りかかります。
田園風景にたたずむ店
2016年3月にこの場所で店をオープンして、無事に4年目を迎えられました。店から眺められるこの田舎の風景も、「いいものだなぁ」としみじみ感じられるようになりました。もしかしたら私だけでなく、この場所にわざわざ足を運んでくれる、たくさんのお客さんたちも、私と同じように思っていらっしゃるのかもしれませんね。
うちの店のおすすめは「天もりそば」(上の写真)。蕎麦と一緒に出す前菜の盛り合わせも好評です。
両親の蕎麦屋の手伝いがきっかけに
私は宇都宮市出身で、高校を卒業し、東京・池袋の調理師専門学校へ進学しました。卒業後は宇都宮市内のレストランに就職しました。そのころ、両親は宇都宮市内で蕎麦屋を始めたんです。私もしばらくの間、仕事の合間をぬっては両親の手伝いをしていましたが、気が付いたら洋食より蕎麦に対する思いのほうが強くなっていきました。でも、そのころ両親は高齢を理由に、引退を考えるようになったんです。
私が跡を継ぐといっても、蕎麦屋は県内に山ほどあるのが現状です。普通の蕎麦屋では面白くないし、もともとカフェをやりたいという夢もあったので、ならば両方やってみようかと独立を決意しました。蕎麦屋でもカフェでもない、真ん中の店なら独走できるんじゃないかと思ったんですね(笑)。
お腹と心を満たす場所に
うちの店は、よく自宅と間違えられるのですが、3階建ての一軒家。どこに店舗をかまえようかと探していたときに出会ったのがこの物件でした。大家さんが新築した建物の1階をテナント貸ししていたんです。本当は両親の店をひいきにしてくださったお客さんが来やすいように、もっと街中のほうがよかったのかもしれませんが。一般的な見方をすれば、経営面や集客面などを無視してますね(笑)。
蕎麦屋は飲食業のなかでも特殊な部類で、山の中にある店でもおいしいと聞けば、平気で行くじゃないですか。ということは、行く時間も、並んで待っている時間も、お客さんにとってみれば、楽しみのひとつになっていると思うんです。食べるという目的以外に、その店に行きたいと思う要素には、ロケーションの良さもある、そう考えてもいいのかなと。うちの店に来ることで、お腹だけでなく心も満たしてくれたら、この場所で店をはじめた甲斐がありますよね。
「ここまでわざわざお客さんがやって来てくれている」という意識は常にもっています。また、この店を目指して来てくれるだけの価値をつくっていかなければと、という気持ちを忘れてはいけないと思っています。
なつかしいような田園風景
目の前に広がる一面の田園風景に、時折、東北新幹線が通り抜ける気持ちのいいロケーション。それが物件を決めた理由にもなっているのですが、もうひとつ。私が幼少期に暮らしていた風景と似ていて、懐かしさのような安心感があったんです。
ほっとする場所というか。新道ができ交通量がふえても、この地域は、市内ではなかなか見ることができない、のどかな風景が今でも残っています。今の時期はまだ茶色ですが、これから緑色になって、黄金色に変わる田園風景。
昼間は新幹線の先に筑波山が、振り返ると男体山が眺められます。日が暮れると今度は、星空の美しさに感動します。
地元の交流が活発な地域
星空がきれいなこの地域は、天文台のある「田原中学校」で月2回、天文台公開日(観望会)を実施しているんですよ。学校に天文台が設置してあることや、一般公開をしていることは全国でも珍しいそうで、毎回楽しみに参加されるリピーターの方も多いそうです。そういった地域の情報を知ることができるのも、地元の常連さんたちのおかげ。
休日以外は店に15時間ぐらいは店にいるので、もはやここに住んでいると言っても過言ではないのですが、地域の情報まではわからないことが多く、近所のみなさんや学校の先生がいろいろと教えてくれるんです。お客さんとそういった交流がもてて、さらにこの地域のことを知れることができるのも、実にありがたいですね。
多方面で活躍する人が集まる街
自然、そして私が田原の魅力と思っている田原町の魅力が「人」です。田原町は、さまざまな分野で活躍されている著名な方が多く暮らす地域。ラジオのパーソナリティーやサッカーの社会人クラブの元監督、合鴨農法を実践している農家さんなど「実は……」な人がいらっしゃいます。
そのなかの1人、元ビーチサッカー日本代表選手の磯裕章さんは、子ども向けのサッカーとかけっこ教室を田原町の保育園や市内の小学校などで主宰していて、地元の子どもたちにスポーツの楽しさを伝える活動をしています。私もスポンサーとして応援しているのですが、各分野で活躍している人同士がつながれる場をつくればこの地域は、もっと盛り上がっていけますよね。豊かな自然をベースに、地元の人たちと大きな輪をつくっていけたらと、毎日この風景を眺めながら構想中なんです。