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美しい麦わら手仕事の魅力を伝えたい

掲載日: くらし人
美しい麦わら手仕事の魅力を伝えたい
中島 絵理

「Forest Chimney」として、ヨーロッパ各国で伝わる麦わら装飾を制作・販売。イベント出店だけでなく、麦わら装飾に興味のある方向けにオンライン教室やワークショップも。
 https://www.forestchimney.com

やわらかな秋風にゆっくりと静かに回転していく、麦わらの立体的なモビール「ヒンメリ」。クリスマスを前に、リビングに置かれたツリーには、同じく麦わらで作られたオーナメント「ストロースター」が飾られていました。これらの麦わら装飾を手作りしているのが、麦わら作家として活動している「Forest Chimney」の中島絵理さんです。

リースやツリーなどクリスマス装飾にぴったりな「ストロースター」。

暮らしに溶け込む麦わらのオーナメント

日当たりのいいリビングの一角に設けられた、中島さんの作業テーブル。窓辺には麦わら装飾の素材となるライ麦が、壁に飾られたオーナメントとともに黄金色に輝いています。

素材や器具が揃う作業テーブル。壁には作品も。

中島さんが麦わら装飾と出会ったのは、今から8年ほど前。ご主人の転勤先の広島で暮らし、家事育児に毎日を忙しく過ごしていた頃のことです。もともと自然素材や、自然と共生する暮らしに魅力を感じていた中島さんは、郊外ののどかな環境での生活を送っていました。そしてある時「ストロースター(麦わらの星)」と、の出会いが訪れます。

「長男の1歳の誕生日プレゼントを探しに行った、木のおもちゃ屋さんで初めて『ストロースターキット』を見つけたんです。麦わらや説明書などがセットになっていて、すぐにやりたい!と思いました。その時からこの手仕事に、すっかり夢中になってしまいました」

ドイツ製のキットを使えば、初心者でも簡単に作品づくりができる。

世界につながる麦わら装飾の伝統文化

ドイツ発祥の伝統的な「ストローオーナメント」を改良し、より美しく繊細な幾何学図形を創り出すことのできるAndreas Dietz社の「ストロースター」。雪の結晶や星、花のような円形のオーナメントは、自然のなかに見られるような規則的なパターンを繰り返す美しさが魅力です。

「ヨーロッパでは、さまざまな麦わら装飾が手仕事として受け継がれてきました。学校でも子どもたちが簡単なものを学ぶ機会があるとか。主食として使われる小麦やライ麦といった麦わらが“豊穣の象徴”として、飾られてきたんですね。日本だとお米の稲わらで作る、しめ縄やお正月飾りなどに近いものがあると思います」

トナカイや日本の蛍かごにも似たオーナメントなど、さまざまな麦編み作品。

世界各国で受け継がれてきた、穀物のわらを使った手仕事。「ヒンメリ」もまた、発祥地であるフィンランドの人々の幸せの御守りとして、古くから受け継がれた麦わらの装飾品。荘厳で神聖、自然や宇宙の摂理たるものを感じさせる「ヒンメリ」は、”光のモビール”とも呼ばれ、古くは冬至の日に太陽の復活を祝って飾られてきたそうです。

ゆっくりと静かに回転する「ヒンメリ」の様子は、宇宙や天上を感じさせてれる。

少しでも合間を見つけては、麦わら装飾を制作し続けてきた中島さん。ドイツ語や英語の書籍も参考にしながら制作に没頭し、次第にオリジナルの作品を作れる腕前に。度重なるご主人の転勤や出産など、生活や家庭環境が変化しながらも、中島さんの傍らにはいつも麦わら装飾がありました。

制作は暮らしの一部。宇都宮市の新居には中島さんの作業スペースが設けられている。

ありふれたものを使って、誰かが喜んでくれたなら

現在、中島さんは夫と子どもとともに栃木県に移住。今年の秋、宇都宮市の郊外に新居を構え、おだやかな暮らしを送っています。もちろん、今も変わらず麦わらの作品づくりに励む一方、イベント出店や動画配信形式のオンライン教室、ワークショップを開くなど、麦わら装飾の魅力を伝える活動も積極的に取り組んでいます。

「ドイツの物語で、キリストの誕生の時に貧しい羊飼いの少年が、何もプレゼントするものがないと嘆いていたところ、そこにあった麦わらで星を作ってあげたという話が、今でも印象に残っているんです。目の前にあるありふれたもので、誰かが喜んでくれるものを作れたらいいなって。そういう気持ちをかたちにできるのが、私にとって麦わら装飾。通常なら、わらは捨てられるようななんの変哲もないものですが、“素晴らしい素材”ととらえ直すと、思いもよらなかったような美しいものができるという、大切な気づきを与えてくれるものでもあるんです」

出来る限り国産の麦わらを使用するのも中島さんのこだわり。時がたつほどに、わらの色も黄金色に変化していく。

ヨーロッパ発祥の麦わら装飾の伝統を日本でも楽しんでもらいたいという思いと同時に、ありふれたものでも視点を変えるだけで、美しいものを生み出すことが出来るという喜びも伝えたい。

手仕事から生まれたものが、なぜあたたかさを感じるのか。それは、つくり手の祈りともいえる、ささやかな想いが込められているからなのかもしれません。

自分ひとりの世界から、オンラインで広がる麦わらの輪

最近では、オンラインを通じ、海外の作家さんとのつながりや興味がある人からの問い合わせも多いとか。中島さんが手にした美しい麦わらの花のオブジェは、ベラルーシ在住の作家さんからの教えをうけ制作したもの。直接会ったことはないけれども、メールのやり取りから信頼し、師と仰ぐ関係なのだそう。教えてもらったり、教えたりと、この日当たりのいい小さな作業台から、麦わらを通じてつながる世界は、果てしなく広く、そしてとても、あたたかい。

「多くの人に、麦わら装飾の魅力を知ってもらいたいです」

手から手へ。今日も世界のどこかで、誰かが誰かのためを想い、黄金色に色づいた麦わらが編み込まれています。

さまざまな編み方を取り入れて作り上げられる、花のオブジェ。
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