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有機農法を営むご夫妻に市貝町の魅力をお聞きしました

掲載日: くらし人
有機農法を営むご夫妻に市貝町の魅力をお聞きしました
倉本祐樹さん 芙美さん

有機農家「わたね」
2018年春、市貝町に移住。有機農家「わたね」をとして、農産物の生産・販売や、ケータリングサービスも行う。屋号である「わたね」は「よく笑い、よく食べ、よく眠る、日々のしあわせのたね」が由来。
https://www.instagram.com/watane.shunsai/

栃木県南東部に位置する市貝町(いちかいまち)。近年では絶滅危惧種である渡り鳥「サシバ」の里と知られ、春には芝桜が見どころとなるなど、山里ならではの豊かな自然が大きな魅力です。今回ご紹介するのは、のどかな田園風景が広がる田野辺地区で、里山の循環資源をいかす有機農家「わたね」の倉本祐樹さん、芙美さんご夫妻。宇都宮市から移住して早2年。清らかな小川や棚田、そんな昔懐かしい日本の原風景が残る市貝町での暮らしについて、お話をお伺いしました。

自然に寄り添う暮らしを求めて

宇都宮市内で、カフェ「2tree cafe」とオープンハウス「2tree open house」を運営した後、“農”を中心とした暮らしを営みたいと、2018年の春に市貝町へやってきた私たち。実は、カフェ時代に保存食作りや農業体験などさまざまなワークショップを通じて、農家の方々と知り合いになれたのを機に、いつか自分たちもこういう自然に寄り添った暮らしができたらとずっと考えていたんです。

自宅敷地内にある長屋門。リノベーションを済ませ、現在は調理加工室として活用している。

その後、カフェを閉めて、私が本格的に農業を学びたいと、オープンハウスを運営しながら、市貝町で20年近く有機農業を営む「爽菜農園」さんのもとへ、1年間通わせていただくことに。そうした縁があって今、この市貝町の田野辺地区に、妻と3人の子どもと移住してきました。現在は里山の循環資源を大切にした農業を営み、「わたね」として旬野菜や小麦、大豆の生産・販売、生産した農産物でつくる料理やお弁当のケータリングなどを行っています。

里山の恵み豊かな四季のお弁当。野菜の定期便のほか、ケータリングサービスも。

未来につなぐ街の取り組みと応援

市貝町は貴重な野鳥「サシバ」が生活できるほど、生態系が整った、美しい里山風景が残る地域。うちの山にはリスやキツツキ、フクロウも生息しています。もちろん、いままで見たことがないような虫もいっぱい(笑)。

日本の原風景として知られる、山の斜面や谷間を利用して作られた階段状の水田・棚田も含め、野生動物と人間が共存できる自然環境を守るために、市貝町では積極的な取り組みも行っています。一時期盛んだったメガソーラー計画も、行政側から規制をかけるなど、未来につながるまちづくりの姿勢も、私たちが市貝町に惹かれた理由。また「爽菜農園」のような先輩農家さんの存在や、私たちのような有機農業を実践する農家への理解や支援も大きいのも、移住の後押しとなりました。

倉本さん宅からほど近い場所にある「報徳牧場」。広大な牧草風景を眺められる。

暮らして気づく、たくさんの魅力

交通の便がいいとか、買物が楽とか一般的な街の住みやすさの条件に当てはまるかといったら、市貝町は決してそうではないでしょう。でも、実際に住んでみると、何気ない日常のなかに自然があるからこその発見や、面白味がある町なんだなと実感することばかりです。

最近では、「かっぱ先生」という市貝町の自然が気に入った自然博士のような方が移住されてきて、子どもたちと自然観察をする企画を行いました。子どもたちと一緒に畑や山に入り、虫や生き物、植物を見つけては、まるで少年のように目をキラキラと輝かせる先生の姿が本当に楽しそうで、気がつけば私たち親子も、自然観察に没頭していました。とくに妻はもともと虫が苦手でしたが、先生や子どもたちのおかげで、新しい発見や興味へとつながることができ、ますますこの街が好きになったようです。

収穫したての野菜を手に取る笑顔の芙美さん。

みんながみんな、他人事ではなく自分事

ファミリーレストランはないけれど、カレーからラーメンまで揃えている定食屋がたくさんある。駄菓子に日用品、漫画、コロッケと刺身もあるような小さな商店もある。しかも、どの店主さんも、みな個性的で愛嬌のある方ばかり。それも、市貝町ならではの魅力かもしれません。子どもたちと一緒にそういったお店に立ち寄ると、自宅に戻る頃には、子どもたちが各店でいただいたお菓子を両手に持っていることも日常茶飯事なんです(笑)。

いっぱい採れたからと野菜をくれるご近所さんや、困ったことがあったら駆けつけてくれる宅配便屋の方まで、私たちを新参者扱いせず、この街のみなさんが他人事ではなく、自分事として私たちを見守ってくれることも嬉しいですね。この街も自然も、みんなの街だしみんなの自然。私たちの子どもも、みんなの子ども。そんな意識をもってくれている、あたたかな人ばかり。田舎ですから、家と家は遠いけれど、人と人との心の距離は近い。そう感じています。

「道の駅 サシバの里いちかい」では、地場産の野菜や特産物を販売する直売所や食事処も。マルシェや芋ほりなど、さまざまなイベントも行われる。

変わらない自然風景をつなぐために

昨年の12月には、ご近所さんたちに協力してもらい、自宅敷地内の長屋を改修。この空間では調理加工室として、自分たちが育てた農作物でお弁当や加工品を作るほか、暮らしと学びを共有する場としても多くの皆様と活用していく予定です。農を通じて人が結びつくような、開かれた農園でありたいし、私たちのように市貝町で就農を考えている人に向けて、できる範囲でのサポートもしたいですね。

間もなく3度目の冬を迎えますが、私たちもこの市貝町の住人として、目の前に広がる昔から変わらないこの自然風景を次世代につないでいきたいと、心から思います。

「土からつながる食卓づくり」を目指し、おいしさと安心をつないでいきたいと自然に寄り添う暮らしを営む倉本夫妻。
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