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暮らしを豊かに彩る、手仕事を広めたい

掲載日: くらし人
暮らしを豊かに彩る、手仕事を広めたい
松崎 麗(うらら)

千葉県出身。日本大学芸術学部を卒業後、イギリス、益子で陶芸を学ぶ。陶芸家として創作活動の傍ら、益子町で『tete+gallery』を営む。
 http://tetegallery.com

手から手へ。日用雑貨や器が並ぶ「tete+gallery」

「益子焼の里」と呼ばれる益子町。メインストリートからほど近い場所に「tete+gallery」があります。ここは陶芸家である松崎麗さんが営む、陶器と雑貨のお店。店内には松崎さんの陶芸作品のほか、布小物やガラス器、木工品、アクセサリーなどの日用雑貨品が並びます。子育てと家事の合間をぬいながら、マイペースで自分らしい陶芸活動を楽しむ松崎さんを訪ねました。

職人の息づかいが感じられる品々が並ぶ店内

工業デザインから陶芸の道へ

幼い頃からものづくりが好きで、家にあるもので常に何かを作り続けるほど、工作遊びばかりして過ごしていたという松崎さん。小学生の頃には絵画や造形の教室にも通い、将来はものづくりに関わるような仕事に就きたいと、日本大学芸術学部に進学します。大学では、家具や車、家電など身の回りの工業製品全般のデザインを学ぶ、インダストリアルデザインを専攻。しかし、勉強を進めるうちに自分には工業的なのものではなく、手仕事のような、人の手から生まれるものづくりをやってみたいと思うようになったそうです。

「私が工業デザインに向いてないなと感じたのには、何か理由があったわけではないんです。でも直観というか、感覚というか…。机の上でデザインを描くよりも、自分のこの手で何かを作りたい。ただ、そんな気持ちが強くなったんです」

ヨーロッパの文化や歴史に憧れをもっていた松崎さんは、卒業を機に、ガラスと陶芸を学ぶため、イギリスのバッキンガムシャーカレッジに1年間の留学を決行。共同作業の上にスピードを要するガラス作りの世界よりも、自分のペースでゆっくりと制作できる陶芸のほうが、自分には合っていると感じた松崎さんは、もっと陶芸を学びたいと思いを募らせるのでした。

「ストーリーのあるものが好きなんです」と話す松崎さん

「陶芸の里」益子町との出会い

工業デザインから手仕事へ、ガラスよりも陶芸を。もの静かで落ち着きのある松崎さんですが、強い意志と行動力は、その控えめの佇まいからは想像もつかないほどエネルギッシュ。留学後は日本に戻り、陶芸の歴史がある場所で陶芸を続けたいと、留学中にイギリス人講師に相談。

すると、イギリス人講師は、以前この大学に益子から来ていた日本人講師から、益子焼の歴史文化について話を聞いていたこともあり、松崎さんに益子町での創作活動を薦めるのでした。

伝統釉で色付けされた松崎さんの作品

益子町はこれまで全くゆかりもなく、一度も訪れたことはなかったという松崎さん。講師の薦めもあり、いろいろと調べてみると、イギリスの工芸活動に陶芸家・浜田庄司が深いつながりがあったなど、徐々に益子に興味が湧いてきます。そこで帰国後、早速、益子の郷土組合に問い合わせをしてみると、今度は製陶所を紹介され、とんとん拍子に事がすすみ、そこで修行することに。こうして松崎さんは、益子町で新生活をスタートさせるのでした。

ストールやバッグなど衣料小物も販売

益子焼に魅了され独立を決意

「素敵な田舎だなぁ」千葉の街中で生まれ育った松崎さんにとって、益子町のすべてが新鮮そのもの。松崎さんの新天地となった益子町は、陶芸だけでなく、自然や街並み、そこに住まう人たちとさまざまな魅力に満ち溢れた町。こののどかで優しい町の空気に、すぐに心が安らいだと当時を振り返ります。

紹介された製陶所で3年修行。益子焼に魅了された松崎さんは、さらに地元の窯業技術支援センターに入学します。アート寄りの教えをするイギリスとは違い、益子では日用品としての陶芸品作りを主に、粘土作りから焼成といった技術などを1年間勉強。ようやく独立となったのは、松崎さんが28歳の頃でした。

ギャラリーの奥には創作を行うアトリエも

一年かけて改装してギャラリーに

「自分の作品も作りながら、さまざまな手仕事を伝えられる、アトリエ兼ギャラリーのような場所にしたかったんです。長い間、借り手がつかないほどボロボロだったこの空間が、なんとなく面白く感じられて、父と一緒に1年かけて改装して完成したのが、この『tete+gallery』です」

壁もなく、床も抜け落ちている廃墟寸前の中古物件。床を張り、壁を張り直し、近隣の古道具屋から建具を仕入れるなど、時間をかけて創作活動のできるアトリエと店舗スペースに改装。

国内外の暮らしに寄り添うアイテムをセレクト
愛着をもって長く使い続けられるものに出会える「tete+gallery」

「ものに対する、職人さんの息づかいや物語が垣間見える作品を紹介しながら、私自身も、益子でとれる粘土と藁やもみなど自然素材からできる伝統釉を使い、この町だからこそ生み出せる作品を置いています」

古くから伝わる伝統技術と、18世紀頃のイギリスの壁紙や日本の着物などをモチーフにした架空の花や植物のデザイン。実際に松崎さんの作品を手に取ると、やわらかなぬくもりが伝わり、器に描かれた素朴であたたかみのある草花が、優しい気持ちにさせてくれます。

長い年月をかけてたどり着いた松崎さんのものづくりへの思いと、益子の風土をいかした愛らしい器。日々の暮らしを豊かにしてくれると、全国に多くのファンがいるというのも納得です。

全国にファンをもつ、素朴であたたかみのある松崎さんの作品

現在は、カメラマンの夫と3人の子どもの家族5人暮らしという松崎さん。第三子はまだ1歳。毎日がバタバタで、創作活動やお店の営業は、子育ての合間をぬいながらなんだそうです。東京、イギリス、益子と、これだけ勉強を重ねてきた松崎さんですが、これからの展望を尋ねると「もっともっと勉強したい」と、ほほ笑みました。子どもたちの描いた絵が貼られたアトリエで、松崎さんはこの先、どんな手仕事を私たちに伝えてくれるのでしょう。

手仕事に魅せられ、その魅力を広く伝える松崎さん
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