魅力あふれる芸能「獅子舞」
獅子舞(ししまい)は、獅子や虎、竜、鹿などを象った頭(かしら)を被って舞い踊る芸能である。その歴史は、紀元前3世紀のインドに遡ることができ、中国や朝鮮半島を経て、日本に伝わったものと考えられている。
大きく分けると1人が1頭の獅子となる「一人立ち」と、2人以上が1頭の獅子となる「二人立ち」に分類され、このうち前者は東日本で多く見られるが、2頭から12頭ほどの獅子が笛や太鼓に合わせて舞う姿は、じつに圧巻である。後者は西日本を中心として全国に分布する。なかでも伊勢太神楽(いせだいかぐら)に代表される太神楽系の獅子舞は、正月の風物詩としても知られている。また、北陸地方には、胴幕に何人もの人が入って1頭の獅子を演じる百足獅子が見られる。獅子舞は、地域色豊かな魅力あふれる芸能である
栃木では「一人立ち三匹獅子舞」が分布
栃木県には、「一人立ち三匹獅子舞」が広く分布する。一人立ちの3頭の獅子が、腹に付けた太鼓を叩きながら、笛に合わせて舞い踊るもので、多くは、雄2頭(太夫獅子・雄獅子)と雌1頭(雌獅子)からなる。代表的な演目として「芝(雌獅子)隠し」、「四方固め」、「平庭」、「弓くぐり」などがあるが、2頭の雄獅子が雌獅子をめぐって葛藤する「芝隠し」は、人間味にあふれるストーリーとして知られている。3頭の獅子を中心に、庭(獅子舞を演じる場)の四隅を固める花籠やユーモラスな道化や鬼、フクベなども登場し、さらには笛や太鼓の囃子方(はやしかた)や「ささら」が場を盛り上げることで人々を楽しませた。
悪疫を鎮める獅子頭
現在、県内には60ほどの地域で獅子舞が伝承されているが、これらは江戸時代から明治時代にかけて各地に広まったようだ。なかでも獅子頭は、悪疫を鎮めるものとして神聖視されたことから、無病息災、五穀豊穣、家内安全の願いを込めて、盆や台風が襲来する時期として恐れられていた八朔(旧暦8月1日)、秋の収穫期になると、寺や神社などに獅子舞を奉納した。また、道路や橋の開通式や施設の開所式などに招待されることもある。
伝えていきたい獅子舞の伝統
獅子舞は、真夏の炎天下に、しかも中腰の態勢で行うことから、かなりの体力を必要とする。地区の若者にとって、獅子を演じること、なかでも雄獅子に抜擢されることは、大変な名誉とされた。しかし、近年は過疎化と少子高齢化によって、獅子の担い手がなく、70代以上の人が獅子頭を被ることも珍しくない。そして、舞や囃子の継承も難しくなりつつある。しかし、地域の人々にとって、獅子舞は心の拠り所である。獅子舞に興味や関心が高まることで、地域が元気になることを願わずにはいられない。
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。