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秋の実りを願い、楽しむ。十五夜と十三夜

掲載日: 文化と歴史
秋の実りを願い、楽しむ。十五夜と十三夜

旧暦8月15日(2020年10月1日)は十五夜

旧暦8月15日の満月を愛でる風習を「十五夜」という。少なくとも奈良時代までには中国から伝えられ、当時の貴族は、満月の月明かりの下で詩歌を作り、管弦の演奏を楽しんだ。月見の風習は、鎌倉時代になると庶民の間にも広まり、現在も続いている。

十五夜の供え物(2011年・那珂川町)

秋の収穫に感謝し、祝う

この日は、月の見える縁側に卓袱台(ちゃぶだい)や箕(み)を出して、その上に5本の芒(すすき)、一升の米粉で作った15個の団子、けんちん汁、さつま芋、里芋、大根などを飾る家が多いが、そもそもは農耕儀礼の一つとされ、芒は稲穂に見立てたものといわれている。そして、秋の収穫物を神様に供えて、秋の稔りを感謝した。別名「芋名月」とも呼ばれる十五夜は、とくに里芋の収穫を祝う日であった。つまり、日本古来より行われてきた民間信仰に中国の月見の風習が融合し、今に伝えられている行事が十五夜である。

藁を束ねて作った棒。栃木県の中央部から北部にかけては「ぼうじぼ」、南部では「ワラデッポウ」、北部の大田原一帯では「ホウネンボウ」と呼ぶ。

栃木県内のユニークな風習

ところで、この日の夜、栃木県内には興味深い風習が見られる。子どもたちが、藁(わら)を束ねて作った棒で地面を叩き、「大麦あたれ、小麦あたれ、サンカクバッタのソバあたれ」などと唱えながら家々を訪ねて廻るのだ。これは、大地の精霊を呼び起こすためとか、もぐらを退治するため、そして「大麦、小麦、そば」など畑作物が「あたる」(豊作になる)ことを願ったものと考えられているが、どんな理由があるにせよ、訪問した家からは、小銭や菓子が貰えたので、子どもたちは、この日をとても楽しみにしていた。

そして、「十五夜の物盗み(ダンゴツキ)」という習俗も見られる。供え物を盗んでも良い日とされ、竹竿の先に釘を付けるなど工夫を凝らして団子を盗んだという。これは、神様の仕業とされ、盗まれると縁起が良いといわれる。

ぼうじぼを打つ子どもたち(2017年・さくら市)。十五夜にぼうじぼを打つことは、栃木県の一部の地域にのみ見られる行事である。足利や佐野を含む南関東では10月10日の十日夜、関西方面では10月上旬の亥の日にこれと似た行事を行う。

これらハロウィンにも似た十五夜の風習であるが、中止にまで追い込まれた時代もあった。子どもたちの間で小銭が動くこと、そして盗みを正当化することが、教育上良くないと判断されたからである。農家が少なくなったこと、さらには地域のコミュニティが希薄になったことも原因の一つだろう。

行事復活に向けた活動も

その一方で、これらの行事を熱く語る年寄りが増えており、地域の子供会などが中心となり、復活に向けた活動も見られるようになった。「藁の中にイモガラを入れると、叩いたときに音が良くなる」という工夫も世代を超えて伝えられている。大人が上手にコントロールすることで、誰もが納得できる行事へと変化しているようだ。

ぼうじぼを作る様子(2017年・さくら市)。年長者が子どもたちにぼうじぼの作り方を教えている。
木に吊されたぼうじぼ(2017年・さくら市)。使い終わったぼうじぼは、柿の木などに吊るしておくとたくさん実がなるという。

十五夜(10月1日)に月見をしたら十三夜(10月29日)も月見を

もう一つ、月を愛でる日として、旧暦9月13日の「十三夜」がある。「栗名月」、「豆名月」とも呼ばれる十三夜は、日本独自の風習で、十五夜と同様に芒、団子、栗などを月の見える場所に供えて、秋の稔(みの)りを感謝する。「片見月(かたみつき)はするものではない」といわれ、十五夜に月見をしたら十三夜にも必ず月見をしなければならないという。

今年の十五夜は10月1日、十三夜は10月29日である。この日ばかりは、晴れることを願わずにはいられない。


篠﨑 茂雄

1965年、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮大学大学院教育学研究科社会科教育専修修了。栃木県立足利商業高等学校、同喜連川高等学校の教諭を経て、1999年より栃木県立博物館勤務。民俗研究、とくに生活文化や祭り、芸能等を専門とし、企画展を担当。著書に『栃木民俗探訪』(下野新聞社)などがある。

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